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自己陶酔劇場 「白痴」エキストラ
その4

 すでに先発隊は各自シーン#25の持ち場についている。奥様とロック者は道に面して座り、鍋の番をしている。その他の者は隣の3畳くらいの座敷(もちろんボロボロ)に上がり込んで、テレビに集っている。ギャルは縁台に座り、膝に幼児を抱いている。アクターズはアップ要員であるからして、おのずから、ちゃぶ台の前というおいしい位置を進められた。さて大渕はどうすればいいのだろう?手塚監督のご指示で、最後列(家の外)から中腰に覗き込むことにする。衣装さん、メイクさんが来て、さらに手直しをしてくれる。大渕の足にはスス、背中には霧吹きの汗が補われ、美しさ(?)にさらに磨きがかかった。現場は焼け跡ということもあってか、スタッフの中には不良の人のような防塵マスクをしている人が多数おられる。

 さて、テストである。仕事帰りの伊沢が焼け跡の道を歩いていると、とあるバラックで焼け出された人々がテレビに食い入って、彼の携わった番組を見ていた、という設定である。アンティークのテレビのガワに現役の白黒テレビがはめ込まれている。画面には橋本麗香嬢扮する、スーパースター「銀河」の誕生日記念歌謡ショーが映し出される。座敷の外左手にはカメラ用のレールが敷かれている。王子様が大渕達の後ろの道(後ろだから見られないのよ!)を右手の方からザクザクと歩いていらっしゃると、カメラはレールの上を後ろからずずーっと前へ来るわけね。大渕はテレビのブラウン管にモノクロで反射している王子様の像を目で追い、イッチャッテル人の表情を演じるのであった。

 テストは5回くらいやったんだけど、ギャルの膝の幼児が泣き出してしまい、どうしても黙ってくれないのでご辞退いただくことになった。そのまま本番になだれ込み。監督はどうしても子供の画を入れたいらしく、今度はもう少し大きい少女(もち素人)を連れてきて、「道を駆けて来て、座敷に上がり込んでテレビを見てね」と言うんだけど、彼女にはどーも理解しがたいらしく、走っては来るけれど、バラックの前まで来ると実の親の方を向いてしまったり、カメラの方を向いてしまったりで、なかなか素直にテレビを見てくれない。かの岩井俊二監督曰く「子役は生え抜きでないとダメ」とはこのことね。撮り直す間にも部屋のアイテムが移動されたり、ちゃぶ台の上にお茶がだされたり、王子様に演出されたりと様々な変化が加えられる。そんな間隙を縫って大渕が生王子様を見つめていたのは言うまでもございません。結局本番も5回以上撮り直して、子役がうまく演じたのかどうかわからないながらもOKが出た。

 更に、同じ演技をもう一度だけ繰り返してスチール写真の撮影。続いて同じ場所でシーン#33(アップ)を撮るのである。カメラは正面から来るとのことで、スタッフはいきなり、今使っていたセットの天井をバリバリとはがしにかかった。だ、大胆なことで。王子様はこちらのシーンにはお出にならないので立ち去ってしまわれた。大渕達の正面にカメラとレフ板(ま、眩しい!)がセットされる。前回、座敷の外にいた大渕も、今度は土間まで進んで良いことになり、ギャルの縁台の端に小鳥のように(?)とまった。テレビの映像は変わって、タイの舞踊のような衣装の銀河嬢が映し出される。今度は子役の演出もないので、すんなりテスト&本番OKとなる。はぁ、終わってしまったのね。どうかこのシーンが編集でカットされませんように!

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更新:1998.08.29(土)
obuchi@yk.rim.or.jp