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自己陶酔劇場 「白痴」エキストラ
その3

 最初のシーンの子供(素人)が言うことを聞いてくれないとのことで、撮影は延びに延びている模様で、当初の本番のはずの1時を回っても一向にお呼びがかからない。女優(笑)は待つのが仕事なのよ。そうこうしていると、離れた席では制作のお偉いさんが地元紙の取材を受けていた。またまたスパイ大渕がこぼれ聞くに、一般公募のエキストラは1300人位集まったのだけれど、今日ここに来ているのは写真選考で残った人たちだぁ!?うほっ!でもこのメイクじゃ土台は関係ない気もするけど...選考に漏れた人々は、25日から3日間で撮られる、500人動員の深夜の大空襲シーンに回されるらしい。ジモティのレディース二人はそちらにも出るのだと言う。でも大人数で衣装が足りないので、地味な服を自前で用意するのだそうな。うらやましい。私も引っ越しさえなければ...

 レディースがトイレに旅立った(手にもメイクしているから、洗えないのである(笑))隙に大渕にも取材の声がかかる。喜んでお受けしますとも。

記者 「参加されたきっかけは?」
大渕 「浅野忠信さんが大好きで、情報を集めていて知りました。」
記者 「こういうメイクをどう思いますか?」
大渕 「きれいに超したことはないんですけど、普通と違う格好ができるのは楽しいです。」
記者 「待ち時間が長いのはどうですか?」
大渕 「映画は待つのが仕事、というのはこういうことなのですね。」
などなど、いろいろ話したわけです。でも横浜から来たというのを言い損ないましたわ。地元紙だと、掲載されても大渕は読めないのよね。でも名前もしっかり聞かれました。王子様が記事を目にされたら、「またこいつか!?」と思われるかしら。

 更に更にうーんと待って、3:30頃にようやく出番となった。立派なオープンセットの向こうに「焼け跡」が広がっている、脇のテントに荷物を置いて、履き物をもらう。大渕は下駄、レディースは茶色い布靴。なぜかグループは2つに分けられ、先発隊は舞台の焼け跡へ。残ったのは二人の俳優と大渕のたった3人。なぜ?いい男の方の俳優がスタッフに「アップお願いしますから」なんて言われている。するってぇと何かい?私もアップ要員かい!?こんな顔でじゃ嬉しくないよ!シーンは2つあって、王子様ありの全体像(#25)と、王子様なしのアップ(#33)らしい。王子様と共演できないの!?そんな心の叫びを知るよしもなく、王子様は現場入りされたのでした。きゃー!王子様は先ほどの衣装の上に紺のジャケットを羽織り、手には通勤鞄を持っていらっしゃる。戦時中のテレビ局(なんじゃそれ!?)のADという設定なのよ。

 アクターズはセットの不発弾をバックに記念撮影などしておじゃる。大渕の写真も撮りましょうと言われるが、この顔なので丁重にご辞退する。一人でたたずんでいたら、なぜかエキストラの幼児の母上に話し掛けられてしまい、(こういうの苦手なんだけど)「あの人がプロデューサーなんですよ」などという世間話をしてしまう。

 スパイ大渕がその日撮影の全シーンの絵コンテが貼られたボードに見入っていると、やっぱり来てくださいとのことで、残りの我ら3人にもお呼びがかかった。撮影現場の「焼け跡のバラック」に向かう道中、「あ、王子様!」と思った瞬間。大渕の前を歩いていた俳優(男前の方)が親しげに王子様に話し掛けているではないか!?さすがに俳優は図太いわい。便乗してしまおうと小走りに駈け寄れば、意外にも、どアップの王子様は私の方を見て「よろしくお願いします。」なんておっしゃるではありませんか!こんなに汚い下々の者にスタアが御自らお声をかけてくださるなんて!驚きと感激の余り、言葉を返すこともできず、ただ駆け抜けてしまいましたわ。

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更新:1998.09.01(火)
obuchi@yk.rim.or.jp