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自己陶酔劇場 「白痴」エキストラ
その1

 7月20日(祝)、大渕は単身上越新幹線の始発に乗っていた。向かうは王子様の待つ新潟。手塚眞監督の映画「白痴」にエキストラ出演するのである。新潟駅もあとわずかという頃、車窓はるかかなた、巨大な県庁舎近く(本当はちっとも近くない)に見える異様な木造建築群、それが「白痴」のオープンセットだ。今日はそこに行くのである。

 新潟駅着。有事の際を考慮し、スタッフの指定より1本早い新幹線に乗ったため、待ち合わせの時間までにはまだ30分くらい有った。(緊張のあまり)寝不足で口の中が気持ち悪かったので、駅を出て商店街のコンビニで歯ブラシを買う。で、駅へ戻ってトイレで歯磨き。これで万全、恐い物なしだぜい!

 約束の南口の噴水の前へ。晴天、猛暑だ。UVカットして来なかった柔肌がチリチリ言う音が聞こえるようである。ほどなく「白痴」のフライヤーを窓に張った、お迎えのマイクロが到着。「私一人のためにお手数かけてすみません」とか色々きちんとご挨拶しようと思っていたのに、運転手のお兄さん、てんで愛想がない。しかたなく無言で座っていくこととなる。ふと見やれば、運転席の横に本日のスケジュールらしきコピー物が! スパイ大渕がこれを見逃すわけはない。そこには全出演者の氏名と集合時間、本番などのタイムテーブルが記されていた。大渕は9:06新潟駅、9:30集合で本番は13:00か...!!!浅野忠信12:30集合(12:15×××発)だとぉ!これはホテルの名前かい!?おっとぉ!ちなみに草刈正雄様は15:00の入りとなっていた。残念ながらすれ違いのようである。

 9:15頃オープンセット着。広大な草地に作られた運動場をフェンスで囲んで、コンテナを並べた、正に「サティアン」のようなところである。5月にパーティーと一般公開、6月にも眺めに来たので、ここに来るのは4回目。運ちゃんの指示で、茶色のキャップを被った若い演出様のもとへ。演出様はすでに数人のエキストラらしき人々に説明をしておじゃる。とりあえず、そちらの説明が終わるのを待って、名前を告げると、テントの中で待機してくださいとのことである。テントの中には十数名のいかにもジモティなエキストラの人々がたむろしていた。つきそいで来たらしい幼児の両親や老人のお嫁さんもいる。恐々「お早うございます」と言って入るが、誰も反応してくれない。片隅に椅子を出して待つこととする。

 ほどなくスタッフが人々にコピーを配り始めたので、すかさずいただく。それは手塚監督御自ら書きなぐった1シーンの絵コンテとその説明だった。でも、何か変。

 焼け跡で泣きじゃくる子供、転がる死体、それが目に入らないかのように場違いなファッションショーの撮影が行われている...
???大渕が出演するのは「焼け跡でテレビに見入る人々」だったのでは?と思った通り、スタッフ殿が間違いでしたと回収に。その場の人々は10:30本番の人々だったのね。

 先発隊がテントを去った後、無事大渕の部隊にも絵コンテが配られた。

 皆さんは空襲で家や家族を失ってしまい焼け跡の街で生活しています。唯一の気晴らしはテレビを見ることです。
 皆さんにはショー番組に見入っている表情を演じていただきたいと思います。メイクも濃い目で、少し取り憑かれてしまっているような感じが出ればなぁと思っています。
よしよし。この絵コンテの片隅に描かれた長身の人はひょっとして王子様!?夢の共演!?きゃっ!ご同業は10人くらいかしら。爺さん、若者、中年の男らにレディースは大渕を入れて3人。同い年くらいの子持ちの奥様と20代前半のギャル。あとは保護者同伴の幼児がちらほら。一人だけ別格で撮影隊に取り巻かれている青年がいて、どうやら地元局のアナウンサーがエキストラ体験レポートをするようだった。

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更新:1998.08.29(土)
obuchi@yk.rim.or.jp