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自己陶酔劇場 「白痴」エキストラ
その2

 10時前にはいよいよ衣装がいただけることになる。衣装部屋もテント。キャリア長そうな衣装部のおばちゃんが一人分ずつ見繕って渡してくれるんだけど、全部ボロなのよねぇ。まず男らが渡されて、その場で着替え出してしまった。わぉ!素人さんの生ブリーフ。大渕はさりげなく背を向けたんだけど、着替えてる男も見てるギャルもてんでお構いなしなのよ。そういう土地柄かい?大渕が渡されたのはベージュのモンペ、ベージュのシャツに昔はブラウスであったであろう、ねずみ色のチャンチャンコ。さすがにレディースは更衣室があって、着せてもらえるのよ。しっかし、ボロ。洗濯機で洗ったら、間違いなく跡形もなくなるであろう。穴ぼこだらけ。ブラジャー見えてますけど...着ていた服は渡されたビニール袋に入れて、各自持って歩くのである。

 続いてメイク。メイク室という名のコンテナで若いメイクさんが描いてくれるはずなのだけれど、イッチャッテル人々をどういうメイクにするかもめているらしく、かなり待たされる。結局、手も足も首も出ているところはすべて茶とか黒のドーランで汚ぁーくムラムラに塗りたくられ、貝殻のように輝いていたペディキュアも塗りつぶされた。顔もまたしかり。目の周りは特に念入りに黒くパンダにされてしまった。さらに凄いのはヘアである。束ねた髪を海藻パック剤でごわごわ、もしゃもしゃに固められ。シッカロールのような粉まで振り掛けられてしまった。大渕のサラサラつやつやヘアはどこに行ってしまったの?二度とシャバには戻れそうにない。どうやって帰ればいいの!?「はいOKです」と言われて鏡を見れば......恐怖がそこには映っていた。マイケル・ジャクソンの「スリラー」を思い浮かべてごらんねぇ。

 再びテントへ。どの人もとんでもない有り様である。同病相憐れむとでも申しましょうか、テントの中では「凄いことになりましたねぇ」を合い言葉に、打ち解けた雰囲気が生まれたのであった。一人ロン毛の今様の若者がいたんだけど、彼は上半身裸にサスペンダーパンツ、そこに革ジャンをあてがわれて(ボロボロなんだけど)、これがなかなかカッコいいのである。ロック者を思わせる風情に仕上がっているではありませんか!似合う人っているのね。

 この日の最初のシーン「泣きじゃくる子供」の撮影が長引いているとのことで、先に昼食となった。風通しの良い屋根だけのテントに移動し、お弁当をもらう。なんと冷たい麦茶と温かい手作りのお吸い物まで用意された。心遣いだわ。

 お腹がくちくなると男らは広げられたシートの上でお昼寝となった。プーそのもののようななりの連中がである。どこぞの地下道さながらの光景。似合いすぎるぜ。

 男らの中に明らかに素人とは違う風情の者が二人いたのだけれど、その庶民的な方が我らレディースに近づいて来て、「撮って来ちゃった」とのたもう。何と王子様に遭遇してお写真を撮らせていただいたという。このナリでである。これを皮切りにまたまた打ち解けた会話となった。聞けば「恐怖のヤッチャン」でデビューしたHという俳優さんで、埼玉から来たのだという。大渕が王子様を追って横浜から来たのだと言えば、インディーズ映画界では誰もが浅野はいい!と言っていると言い、しばし浅野談義に花が咲く。

 そこへである、Hの「あ、来た」の声に振り向けば、すぐそこに王子様がいらっしゃるではないの!?ストライプのシャツにスラックスの「伊沢」のいでたちで逆立ちなぞして憩っておられる。どうしよ、どうしよ!私はこのナリだし...全然動じていないHに伴われ、カメラを持って近づけば...この異様な連中に気づいたのか、王子様は離れて行ってしまうではないの!終いには絵に描いたようなダッシュで逃げられてしまった。あーあ!このカッコじゃ恐いわなぁ。しかし、字に書いたように心臓がドキドキする大渕であった。

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更新:1998.08.29(土)
obuchi@yk.rim.or.jp