KRS021216

[番外編]「アカルイミライ」黒沢監督トークショー

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12月16日、銀座ガスホールにて、大人のためのカルチャー雑誌「Invitation」の創刊記念として「アカルイミライ」の特別試写会と黒沢監督のトークショーが催された。映画鑑賞後に静かに現れた監督は、どこか藤竜也さんの面影を宿していた。

ご出席(敬称略)
黒沢清 監督
菅付雅信 (司会:「インビテーション」編集長)

<上映後のトークより>

司会 実は「アカルイミライ」の一般試写会は、今日がまったくもって初めてでして、あの関係者向けの試写会は少しやってますし、東京フィルメックスで上映もあるんですが、僕も前に見させていただいて、本当に素晴らしい映画だなと思いまして、光栄に思っております。

黒沢 ありがとうございます。こんなにここが一杯になるなんて、ちょっと驚きですけども、たぶんシネアミューズで来年公開するんですが、ここシネアミューズよりもたぶん広いんじゃないかと思うんですが

司会 広いですね。

黒沢 スクリーンも大きいみたいなんで、今日の方がお得かなぁみたいにも思いますし。ただ、ぜひ、もし良ろしければシネアミューズでも見ていただけると、嬉しいんですけどもね。ええ、いつもこうやって会場にたくさんお客さん、こういう会場に来ていただくのを見ると嬉しい反面「あぁ!これでちゃんと公開のときには誰も来ないんじゃないか」って恐怖なんですよね。

司会 さっきから言ってましたよね。

黒沢 そうなんですよね。あの嬉しいやら、何やら、恐いやらで、まぁドキドキしてますけど。

司会 この「アカルイミライ」というのは、発想といいますか、どこから着想を得たものだったんですか?

黒沢 まぁ色々なきっかけがあったんですけども、一番基本的な所はですね、僕は前の映画ってのはもう2年前くらいになるんですけど、「回路」というホラー映画で、それまでにもホラー映画というのはけっこう何本か作っていて、特に1990年代の後半だったということもあって、何かこう世紀末的なですね、非常にネガティブな印象を持たれることが多かったんです。つまり、これまでの映画は、大体見終わったときに、他人から「わ、暗い未来を予感させますね。」って言われたんですね。確かにそんな映画なんですけど、多かったんですけど、「監督ってのは本当に未来に絶望してらっしゃる人なんですね。」とかこう言われて、「いや、映画はそうだけど、僕は全然違うんだけど」って思いがなんか強かったんですね。未来に絶望してたりすると、今時映画なんて撮ってないわけで、むしろ自分は底抜けに楽天的と言いますかね、あまりネガティブに物事を考えないタチなんですが、映画はどうしても暗い未来、暗い未来と言われ続けて来たので、この辺でちょっと明るい未来の映画を撮っておきたいな。というのは、これは冗談ではなくて本当にそれは一つのきっかけでした。まさかそれがそのまま題名になるとは思ってなかったんですけども、未来は明るいのだという前提に立ったとこから、物語を考えてみようかというのが一つのきっかけでしたね。

司会 三人主演と言いますか、浅野さん、オダギリジョーさん、藤竜也さん、もう素晴らしいキャスティングで、かなり皆さん良い見せ場があると思うんですけど、これはどういうところから三人のキャスティングをなされたというか?

黒沢 そうですね、まず今回は今までとちょっと違う映画を作りたいという思いがあったものですから、キャスティングも、今まで一度も一緒に仕事をしたことのない方にまずは当たってみようと思いました。脚本を書いているときには、あまり僕は俳優を誰にしようというのは考えないんですけども、なぜかというと、考えてしまうと、その人でなくなった場合、どうしてもそのしっくり来ない、後々までしっくり来ない感じが残ってからなんですね。ですから、イメージキャストというのはあまり考えずに脚本を書いております。ただ今回は脚本もあらかた出来つつあるときに、まったく新しい人とやりたいなぁと思いましたんで、この三人の名前が出て来ました。たぶん最初にそういうイメージした人ってのは、まず向こうがこの脚本を気に入るかどうかわからないし、たとえ気に入ったとしても、三人がスケジュール的にぴったり合うってことはほとんど難しいと思ったわけですね。ですから第2候補、第3候補というふうに普通ならなって行って、そうそう最初のイメージ通りには行かないと思って交渉したところ、奇跡的に最初に思いついた人が全員気に入っていただいて、全員スケジュールが合ったっていう、これは本当に珍しいことでした。この三人のことを思ったのは、非常にわかり易い理由なんです。オダギリジョーさんは、僕は失礼ながらそれまでテレビのバラエティショーのようなものとか、トーク番組のようなものでしか見たことがなかったんですね。まぁ「仮面ライダー何とか」に出ているというのは知っていたんですが、その「何とか」というのは見ていないんで、それは見ていなかったんですが、トークショーを見た感じが、非常にね「この人、たぶん変わった人なんじゃないかな?」、そう思ったんですね。ただ自分では、非常にノーマルなつもりでいる、自分はもう素人みたいなもんですからっていう、非常にノーマルな受け答え、トークショーでされているんで、「いや、この人たぶん、何か変わっている」、それでもう直感しました。たぶん俳優としてもまだ自分がどういう俳優なのか、日本の芸能界でどういうポジションにいるのかというようなことを、もちろんまだはっきり自分でも認識していない。そういう自分で自分のことをはっきり認識していない、むしろ平凡な存在かと思っているんだけれど、実は知らないところで非常に独特な個性がある、まだ自分はわかっていないけど、という有り様が、まぁこの、この役をですね、今回の主人公にそのままぴったりかなと思ったんですね。仁村雄二という役ですけども。浅野忠信さんは、これはまぁもう前からよく見ておりましたし、個人的には一緒に仕事したことはありませんでしたけども、なんとなく、これも映画などを見たり、人づてに話を聞くと、俳優としてもうかなり経験積んでらっしゃるんですが、何かその日本の芸能界というものがあるとしたら、芸能界って、俳優、まぁ映画界でもいいですよね、そこのど真ん中にいるようでいて、何かその完全にそこからはみ出て、たった一人、ぽつんと外側から冷静に、日本の映画界を眺めているような、そういう感じが前々からしておりました。それでその、真ん中にいながら、実は精神的には完全に外側にいるっていう、どうもこの、今回の守という役にぴったりだなと思って、まぁ一度何か機会があったら、一緒にお仕事したいと思っておりましたから、まさか、この浅野さんのスケジュールが一番厳しいと思ってたんですけどね、これもまぁうまく行きました。最後に藤竜也さんに関しては、これはね意外と思われるかもしれませんけど、僕は数年前に石井竜也が、カールスモーキー石井さんですね、の監督した「河童」というのと「ACRI」というのを見まして、ご覧になったいるかと思うんですけど、「ACRI」っていうのは特にそうなんですけど、ほとんど藤竜也さん主演のような映画で、もう大ベテランで、僕なんかはもう昔の70年代くらいの非常にニヒルな、ダンディなイメージがあったんですが、まったく違うキャラクターを軽々演じてらっしゃるんです、ほとんど英語をしゃべってるんですけど、「ACRI」の中で。この人、大ベテランなんだけど、すごくその身軽で柔軟な方なのかなぁ?とは思ってたんです。今回、唯一年上でそれなりのビッグスターというか、有名な俳優さんということで、色々頭に浮かべてみますと、僕個人的にはほとんどお会いしたことない人ばかりなんですが、みんな恐そうなんですよね。藤竜也さんだけが意外と、いや、ひょっとして恐いかもしれないけども、「ACRI」を見たりするには、「カールスモーキー石井さんと仕事できたくらいだからな..」とかなんか、カールスモーキーさんもよく存じ上げてはいないんですけども、「たぶん柔軟な人なんではないかな?」と思って、恐くなさそうってことを非常に気にしてですね、声をかけさせていただきました。そしたらね、本当に恐くない人でした。

司会 恐くないですか?

黒沢 全然恐くなかったですよ。

司会 あ、そうですか。

黒沢 ええ。あの藤さんはね、びっくりしました。まぁ予想通り、本当に柔軟な方で若々しいと言いますかね、僕なんかもその単にファンとして聞きたいから、昔の日活の最後の方とかですね、色々な撮影所の話とか聞くんですけど、もうね「やめてくださいよ、そんなこと、もう忘れましたよ」って、全然言いたがらないんですよね。「もうそんな古い話されても困っちゃうなぁ」っていう、「今はもうこの作品しか考えてませんから」とか言って、まったく話そうとされないんですね。珍しいです。大体俳優にしても、スタッフにしても、監督にしても、ある程度年を取って行けば必ず昔話するんですよ。僕はたまにそういうの聞くの楽しいんですけど、藤さんは一切なさらないですね。若々しいってことだと思います。

司会 なるほど、なるほど。あの表紙の撮影で「インビテーション」の表紙で黒沢さんとかオダギリさん、浅野さんに出てもらって、で藤さん出ていただいて、そのときに、すごく藤さん恐かったです、はっきり言って(笑)。表情全然変わらないから。ポラロイドとか私全部見て、藤さんだけ表情全部一緒なんです。

黒沢 いや、ただね、あれ写真撮られるじゃないですか

司会 はい。

黒沢 で浅野さんにしても、オダギリさんにしても、まぁ俳優ですから「スチール写真って苦手だな」ってみんな言うんですよね。「ほんとにツライですよね」って、で「藤さん、どうですか?」って言ったら、「いやぁ、楽しい!」って(笑)

司会 言ってました!?

黒沢 「ほんと楽しいなぁ!」って言ってましたよ。

司会 全然そう映ってないですね。

黒沢 本当に楽しんでました、スチールのとき。

司会 安心しましたよ。

黒沢 ええ。

司会 今回、そういう希望のある映画になってるわけなんですけども、やはりこのある種の希望があるっていう辺りを言いたかったってことが大きいわけですよね?この映画の中では。

黒沢 そうですね、まぁ映画今終わった所で、皆さんそれぞれに感じていらっしゃるでしょうから、あまり僕が解説加えてもしょうがないと思いますけど、希望があるってことだけは何としても伝えたかったってのも変ですけど、表現したかったですね。ただ、まぁ「じゃあその希望って具体的にどういうこと?」っていうと、「いやそれは僕にはわからないんだ」という、しか言えないんですけど、「こうこうこうなることが希望ですよ!」とは言えません。一人一人違うから。でも「希望はある!」っていうことだけを、なんとか表現はしたかったです。

司会 なるほど。早くもマキが入ってしまったようで、残念ではあるんですけれど、ということで「アカルイミライ」、みなさん気に入っていただけましたら、ぜひ友人知人親族一同にお勧めしていただいて、シネアミューズを満満杯杯にしていただきたいと思っていますので、ぜひご協力ください。本当に今日は集まっていただいてありがとうございました。


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更新:2003.01.24(金)
obuchi@yk.rim.or.jp