2月16日、シネマート新宿にて、スタイリスト北村道子さん初の書籍「北村道子 衣装術」刊行を記念して、衣装を手掛けた映画のオールナイト上映が行われ、トークショーにはベルリン映画祭から帰国したばかりの浅野をはじめとする、ゆかりの俳優たちが駆けつけた。 | ||
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司会: |
まずこういう顔ぶれが集まることってめったにないと思うんですけど、どうですか、北村さん、こういう形で会うことってあまりないんじゃないですか? |
北村: |
ないですね。 浅野君は? ないでしょ? |
浅野: |
ハイ。 |
伊勢谷: |
いや、北村さんどうやってステージでしゃべるのかな?って。 あまり見たことないから楽しみなんですよね。 |
北村: |
(笑) |
伊勢谷: |
マイク持ってからしゃべってよ。 |
司会: |
じゃあまず皆さんに北村さんとの出会いをうかがいたいんですけども、まずは浅野さんから、最初の出会いというのはどういったところから? |
浅野: |
僕は、「幻の光」ですよね、はい。 すでに楽屋で話してた雰囲気と全く違う世界になってることがちょっとおかしいんですけど。 |
伊勢谷: |
(笑) |
浅野: |
「幻の光」という映画が、もう12年くらい前にありまして、その映画の監督が、僕が「ポッキー四姉妹物語」っていうのをやっているときに、現場ですごい睨んでる人がいて、それが是枝さんだったんですけど、僕全然気付かないで撮影してて、すっごいずっと睨まれてたんですよ。 何でこの人はこんなに見てんだ?スタッフの人じゃないし、何だろう? そうしたら是枝監督で。 その後で「幻の光」っていう映画を撮るから、その監督に会ってくれっていって、会って、その後ですぐ衣裳合わせするってときに北村さんがいて、それがもうすごいやっぱインパクトありましたよね。 |
北村: |
(笑) |
浅野: |
ええ、いきなり抱き合ったの覚えてますよ。 |
司会: |
いきなり抱き合った? |
浅野: |
ええ。 |
北村: |
私が思わず、やっちゃいましょうよって。 |
司会: |
何で抱き合ったんですか? |
北村: |
何となく。 |
浅野: |
何か感じ合ったんです。 |
司会: |
ムードが? |
北村: |
丁度、浅野君の子供がお腹にいたんですよ。 |
浅野: |
そうです、そうです。 |
北村: |
浅野君じゃなくて、CHARAさん。 |
浅野: |
そうですね。 |
北村: |
それで、おめでとう!って意味が私の場合、ちょっとハグしましょって感じなの。 |
司会: |
役得みたいな? |
北村: |
はい、役得で。 |
司会: |
そのときは浅野さんは北村さんをどういうふうに? |
浅野: |
いや、もうだからその衣裳合わせの、衣裳が置いてある部屋に入ったときに、これはいつもと違うなと。 いつもはやっぱりどうしてもTK衣裳とか |
司会: |
TY衣裳とか。 |
浅野: |
ええ、その映画の会社の用意する人の打ち合わせみたいなことが多かったから、僕はどっちかというとずっと、変な言い方すると、戦って来たというか、僕等はこんな服着ないですよ!って言って、自分の私服とか持って行ったタイプなんですよ。 でも北村さんのときはもう、わぁっ!と思って、もういきなりハグですから、もうこれは何か、やっとこういう人に出会えたっていう感じがあって、全く雰囲気が違かったですね、ええ。 |
司会: |
伊勢谷さんは最初どういう出会いですか? |
伊勢谷: |
僕は写真だったんですよ。 覚えてます?紀里谷さんとの撮影で |
北村: |
覚えてる、覚えてる。 |
伊勢谷: |
孔雀の羽とかがガムテープでこう巻きつけられたりとか、ちょっと奇奇怪怪のことが行われながら、話されてる内容は宇宙の話だった。 |
北村: |
(笑) |
伊勢谷: |
そう、それが俺すごい印象的です。 もうね、けっこう本当にずっと目真ん丸くしてたのを。 あんまり話が聞こえて来ない、あっちの話からこっちの話が繋がってくる、まぁ今会えばわかるんですけど、その当時の自分としてはですね、恋愛のことと宇宙のことと癌のこと、色々絡んで来るんですね、どわーん!と、それは僕本当にびっくりしました。 どう対処して良いのか、僕のマニュアルにはなかったので、北村道子さんが、はい。 |
司会: |
それは「キャシャーン」の? |
伊勢谷: |
いえ、また全然違う「装苑」っていう雑誌。 |
司会: |
あ、そうですか。 |
伊勢谷: |
はい、撮影で。 偶然だったですね、あれは紀里谷さんが北村さんで。 |
司会: |
菊地凛子さんは、最初の出会いは? |
菊地: |
私は浅野さんが監督をされた「トーリ」っていう映画の中の「心の刀」っていうチャプターがあって、それで初めて浅野さんのお誘いで北村さんにお会いして、そのときに袴みたいなのがあって、その袴の横がすごく開いていたんですけど、「そんなのアンタ取っちゃいなさいよ!」って言って、あ、そうですねって言ってこう取って、その辺から何か北村さんが「あなたは大馬鹿なのか天才なのか良くわからない。」。 それが最初の出会いで、その後に、私百合子っていう名前でやらせてもらってたんですけど、ある日「どうも百合子って地味よね。」って言って。 「凛子が良いんじゃない?凛子。 良いと思うわぁ、凛子って。」って言って、あぁ、じゃあ凛子でって、それから凛子って始まって。 |
司会: |
強引ですね。 何で凛子って思ったんですか? |
北村: |
私がね、個人的に自分の名前が本当の名前はドージンなんですよ。 |
司会: |
は? |
北村: |
うちの父が、何か男の子が欲しくて道に人っていう名前で、何か自分のイメージの名前は凛としている姿が美しいっていう、どこかでやったよね?花の姿が、花にたとえることじゃなくて、花一輪が凛と立っているっていう、そういう形容詞的な言葉としてのその”凛”っていうのが好きだった。 |
司会: |
なるほど。 |
北村: |
うん、そのときは、彼女はけっこうそうじゃなかったのよ。 それで、凛子っていう中に内在してる何かを持ってると思ってたから、今はもう全くその形に入って来てるじゃない、ねぇ。 |
菊地: |
光栄です。 |
司会: |
浅野さんが多分この中で一番北村さんと一杯仕事をしてますよね? |
浅野: |
多分そうだと思うんです。 |
司会: |
ですよね。 |
浅野: |
ええ、事あるごとにお願いしてるんで。 この間も自分で短編を監督させてもらったとき、もう全部お願いして、はい、大変だったと、お世話になりました。 |
司会: |
そういうときってどういう打ち合わせをするんですか? |
浅野: |
いや、全然打ち合わせしないですね。 |
北村: |
と言いつつ、しぶとく今回は頼みに来るなって思って。 実は乞食をやって欲しいとかね、台本にはないことを。 一応はこう頭の中でギリギリ来てるんだけど、頼み方も上手い、ニコニコしながら。 で、思わずやりましたね。 |
浅野: |
いやもう、だから僕はいつでもどっちかというと俳優で、監督がいて、北村さんがその監督と色々やり取りしてるのを見て、僕は服を着るじゃないですか、そのやり取りを見るのがやっぱすごい好きなんですよ。 やっぱ大体北村さんが持ってきた服を最初みんな、ガーッって何かショッキングな目でみんな見てるから、それを俺は心の中で北村さんにもっと行け!もっと行け!って言ってて、でこう北村さんも何かあると、「ねぇ浅野君、大丈夫だね!?」みたいな、来たな、俺に振って来たなってのがいつもなんですけど。 でも何かそういう、想像出来るようなことで僕はやっぱ終わって欲しくないと思ってたから、北村さん絶対想像出来ないようなことから始めてくれるんで、だからもう自分が何かやるときは絶対にお願いしたいなと思ってます、ええ。 |
司会: |
僕は浅野さんが、今日上映しますけど、「双生児」で、あまり出番は多くないんですけど、とんでもない格好で出て来ますよね。 |
浅野: |
そうですね。 あのときも、だからすごいかっこいい格好してて、本木さんに「良いな、浅野君は」って、ハイ、うらやましがられました。 |
司会: |
本木さんが? |
浅野: |
はい、「僕は何かチョイチョイで終わっちゃうんだけど、みんな君のときだけやたら時間をかけててうらやましいな。」って言って、ええ。 |
司会: |
あとあれですよね、「殺し屋1」もかなりすごい格好してますよね? |
浅野: |
「殺し屋1」はすごいですよ。 ただ普通の日本の人の考えだと、絶対原作の漫画があったりしたら、あれはもう垣原は黒いスーツに黒いネクタイしてるみたいなヤクザだから、絶対そういう服を持って来ると思うんですね。 でも絶対もう最初から「そんなのどうだって、アタシは原作なんて読んじゃいない」って言って、「若冲の魂がこもってる。」って言って、もう着物持って来て、僕に着させてますから。 |
司会: |
本当に最終的には読まなかったりしますよね?原作をね。 北村さんの原作嫌いは有名ですよ。 原作読まない。 |
浅野: |
でも原作者の山本英夫さんとかは気に入ってましたよね。 |
北村: |
私、自分が読むのは、自分がチョイスする脚本でいたいよね。 だから一瞬はタイトルを見て、こう自分勝手にもう翻訳して行ってるんだと思うの、頭の中で。 だから現実、自分のビジュアルでもう出来てるから、それ以外のことって本当に出来ないのね。 もし誰かがこの違うビジョンが来ると、もう壊れて行きそうになっちゃう。 |
司会: |
なるほどね。 |
北村: |
だから、一個しか出来ないタイプだから、譲れなくなっちゃう。 スイマセン!って感じ。 |
浅野: |
だから映画よりも広告、CMとかの仕事のときの方が笑っちゃいますよね。 |
司会: |
あ、そうですか。 |
浅野: |
CMやってる人とかは完全ノーマルな状態を求めてますから。 |
司会: |
あぁ、そうですね。 |
浅野: |
まず面食らって、大体控え室で「浅野君、アタシはこれが絶対良いんだけど。」とか言って、また絶対おっ始まるから、「これ持って来たから。」って言って、「でも、そっち押してね。」って言って、そっから始まりますね。 |
司会: |
北村伝説が一つ、よく現場で揉めるとか、監督と揉めるというのはありますけど、どうですか?俳優として。 |
浅野: |
でもいつもじゃないですけどね。 |
司会: |
そうですか。 |
浅野: |
後から聞いて、盛り上がったとか。 |
北村: |
ここにいる三人は監督より強いと思いますね。 そうじゃなきゃ私頼まないもん、こういうふうに推してねとか。 監督も多分彼等には、リスペクトしてるから、彼等が言うんだったら良いだろうなっていう目線で私は頼んでますよね。 こう言ったらこう言ってねっていう感じで。 |
司会: |
さっき浅野さんが、現場で北村さんが衣裳持って来ると、みんなガッと引くっていう話が出ましたけど、そういうのってしょっちゅうあるんですか? 伊勢谷さんとかはそういうのありました? |
伊勢谷: |
あの大体、最近は予想するので。 その前に打ち合わせがあるじゃないですか、クライアントさんと。 で、必ずもうそこでぶつかってるなっていうのは僕の頭の中であるんですね。 で、ぶつかってるのを見せてもらって、でクライアントの意見をもらって。 で、北村さんにこっちをやらせたら、北村さんじゃない人に頼みなさいよ!って話になってしまうじゃないですか。 だから僕は北村さんのをやるんだったら、こっちの北村さんの方に寄せるよう努力を先にするんですよ。 クライアントの方には僕がけっこうわぁーっ!て話して、これじゃ面白くない面白くない面白くない、こっちの方が面白いですよ、そしたらこっちに変えて行った方がもっと良いじゃないかってことをやるのが役目になっちゃいました。 |
司会: |
疲れますね。 |
伊勢谷: |
そう、結構疲れます。 疲れますよ、ええ。 |
司会: |
菊地さんはどうですか? |
司会: |
そうですね、やっぱりクライアントさんが言ってることがやっぱり北村さんにはわからない。 だから本当に、あの人たちは何を作りたいのかわけわからないって言って、わからないってことをずっと言ってるんですね。 だけどもそのわからないってことを曲げない。 やっぱりクライアントさんって大きいと思うんで、基本は意見をちょっとこう柔らかくしようとか、じゃあちょっとそこで理解することに持って行ったりとか、まぁ色々方法があると思うんですけど、北村さんはわからないことはわからない。 でそこでやっぱり相手を理解したいと思う気持ちがやっぱりあるんですね。 そこにすごい情熱がある方なんで、それをやっぱり曲げない、相手に対して色を変えないってことが北村さんのスタイルで、だから見てる側、お願いする側としては、そこがやっぱ信用できる場所だと思うんですよ。 そういう所が本当北村さんの姿勢、スタイルっていうところの貫き方が好きですし、それを見ていると私自身もそういう女でありたいっていうふうにいつも思うってのがあるんですよね、うん。 |
司会: |
良い言葉ですねぇ。 |
浅野: |
何か、考えてたんじゃないの? |
司会: |
やっぱアカデミー賞獲る人は違いますね。 |
伊勢谷: |
素敵ぃ! 上手いなぁ。 |
浅野: |
上手いなぁ。 |
菊地: |
いや、本気ですよ。 |
司会: |
成長ですねぇ。 |
浅野: |
なるべく凛子に振ってもらった方が良いかもしれない。 |
司会: |
まとめてくれました。 |
北村: |
この二人がまとめてくれないから。 |
司会: |
でも例えば、北村さんってかなり強い衣裳を持って来るわけですけども、さすがに僕はこれはでもってのはなかったですか? 浅野さん、ちょっとさすがにこれはとか。 |
浅野: |
いや、僕は全然ない。 本当にないですね。 でもそれ以上にやっぱり、だから他のこともたいへんなことは一杯あるんで、もうそれどころではないというか、はい。 |
司会: |
これ着るんですか!?みたいのはなかったですか? |
浅野: |
なかったです。 むしろだからその逆で、さっき言ったように映画会社の人たちが用意してくれた物で、まだ僕が十代の頃とかは、絶対着たくない!ってのは一杯ありましたね。 こんなセーターを横浜に住んでる十代の俺が着るわけはない!そういうことは一杯ありました。 |
司会: |
伊勢谷さん、どうですか? |
伊勢谷: |
いや、全くそれはないです。 本当に楽しませてもらえているというか、やっぱり自分の思っている以上のことをイメージを与えてくれるんで、そこにじゃあ自分はどういう風にいれば良いのかな?っていう 、自分が思っていたところにもう一つステージを上げていただいているなっていうふうな意識はあります。 |
司会: |
あの「ジャンゴ」でかなりすごい格好してますよね。 |
伊勢谷: |
そうですね、でも僕はすごくすんなり、すごく気に入って着てました。 正直他のキャストよりも、俺のが一番だ!って思って完全に着てましたし、はい。 |
司会: |
北村さんが彼等の衣裳をやるときに気を付ける点っていうのはどういったことを? |
北村: |
私が例えば彼等をスタイリングするときは、なぜ彼等がやり易いのかっていうと、一つには、とてもアーティストである。 二人とも絵を描いてる。 それと同時に、凛子ちゃんもそうなんだけど、音楽のセンスがある。 で私基本的に洋服をどうするかっていうよりも、まずこの洋服を着てけっこうイケるか?ってことの方が先決なのね。 |
司会: |
イケる? |
北村: |
うん、イケるか?っていうのは、波に乗れるか?ってこと。 例えば私がやっぱりすごい着る着ないに関して、自分自身が居心地が悪いものは絶対に着ないタイプなの。 どんなにそれが高かろうが、安かろうが、そういうことじゃなくて。 自分自身がそういう感情を持っているから、相手に対しても同じだと思っちゃう。 だから、どうかこれを着て、自分のリズムを掴んでくれれば良いかなっていうの。 リズムがないと、ちょっと私は調子悪くなっちゃう。 だから先に何かがあって、俺これ着れない!私はこれは嫌だ!って、着もしないのに先に言われちゃうと、もうどうして良いのかわかんなくなって来ちゃう。 ていうのは、自分の好きなミュージシャンの曲を聴きながら、自分がこう洋服を決めて行って、最終的に1位にノミネートして、彼等にオンリーワンで勝負してるんですよ。 だからそのオンリーワンの前には20着近く私の手元でボツになってるんですよ。 それは自分の中に、例えば好き嫌いの音楽がダァーッと、自分がまず着てみたい、これだったらイケる!とか、これだったらちょっと落ちるとか、そういうリズムの中でちょっと衣裳合わせのときに勝負を賭けてるんだね。 私も一線上で戦いながら、私は彼等を尊敬してますので、彼等に対して勝負って切り札でやってるから。 だから今は似合わないかわからないけども、撮影になると絶対に似合うに決まってるでしょ!と思ってないと、衣裳ってやってられないってのがある、うん、私にとってね。 どうでしょう? |
菊地: |
それはそう思いますし、北村さんがやっぱり最終的にそこまでやっ行ったものっていうのを着る側の私たちは、もうそれだけでOKなんですよね。 だから私、初めての国際映画祭でカンヌ映画祭ってとても大きな映画祭に行くときに、やっぱり自分で例えば選んだ洋服だったり、例えば北村さん以外に選んでもらったり纏うことが出来て、だけどそれ以上に、人間としてそれ以上に開けて行けないってのがあるんですよね。 北村さんがああやって着物を、カンヌ映画祭でお着物を選んでくれた時点で、もうそこで私っていう人格がもう前に行けるようになっていて、もうそれだけで良いんですよね。 そういう本当に心ある衣裳だから、ちゃんとそれを着ることによって自分が立っていられるっていう、何か押してもらう何かをいつももらうんですよ。 だからいつも肝心なときに、不安なこととか、なかなか臆病だから前に行けないことがあるときに北村さんを着れば、もうそれだけでOKっていう何かそういうキー、記号になってるというか、キーっていう、そこがすごくはずせないっていうふうに多分皆さん思ってらっしゃるんじゃないかなっていうふうに思うんですよね。 |
司会: |
なるほどね。 北村さんって、すごく自分の衣裳を説明するでしょ? 説明しません? |
浅野: |
そうですね。 |
司会: |
聞くとすごくわかりますよね。 |
浅野: |
そうですね。 だから、そういうことをやってくれる人がやっぱ本当にいなかったから、今も凛子ちゃんが言ってくれたように、あぁって、こう。 もちろん僕は違和感を感じてるってことは一杯あるけど、その違和感を感じない方がおかしいというか、何か、何かあるんだっていう。 |
北村: |
非常に、まぁ60年生きて来てね、一個だけ学んだことは、すごく面白いんだけど、矛盾こそクリエイティブであるってことなの。 |
司会: |
矛盾こそクリエイティブ? |
北村: |
そう。 だから完全っていうのはないわけじゃない。 例えば今ここに3人いるじゃない、みんなバラバラなのよ。 だけど、バラバラな奴等の良い所をチョイスして、一つの美しいハーモニーでいられることがクリエイティブなんですよ。 だから何もみんな同じである必要はないわけじゃない。 例えば一人が写真が上手ければ、一人は落書きのグラフィティが上手くて、もうそれ全部一つのスクリーンになれるじゃない。 そういう良い所を全部、こう上手くやって、やっていくことが出来る。 だから完全なんて全くないし、みんな50点で良いんじゃない?って感じで。 で50点が100人いれば最高じゃない?っていうクリエイティブワークが出来るんじゃないかと思ってる。 だからそのたった一人がそこの場所に来るとき、そこのここまで来ると素晴らしいものにたどり着くじゃないかな?っていうのが自分の夢ですよね。 だから自分一人では何も出来ないんだけれども、役者ってのはすごく面白い。 だから私が好きな役者っていうのは、群集の中に行けば行くほど個性が出て来る奴なんですよね。 ここにいる3人は全くそうなの。 普通こうやっているとただの子なのよ。 ただの子って言っちゃ悪いけど。 それが群集に行くと野生的になって来るのね、この3人とも。 それがやっぱ一人の存在じゃないかと思う。 普通私たちってのは群衆に行くと溶け込んじゃうじゃない? |
伊勢谷: |
北村さんが言っちゃだめでしょ? 全然溶け込んでない。 |
北村: |
それがすごい嬉しいって感じだね。 ただあのそこら辺の洋服が彼等の肉体を通して、それが喜びに変わってくってことなんじゃないかな。 |
司会: |
ほう。 |
北村: |
うん、大事ですよ、やっぱり。 どうでしょうか? ちょっとは慣れて来た? |
伊勢谷: |
(笑) |
浅野: |
緊張がほどけて来て。 |
伊勢谷: |
北村さんもノッて来たから良かったですね。 ノラないかと思った。 「私しゃべんない。」とか言ってたから。 |
司会: |
さっき楽屋で、私しゃべらない宣言ずっとしてたんですよ。 |
伊勢谷: |
ね。 だから北村さんの服作りって、今服作りの話だけだとあれなんですけど、北村さんは服作り以外のことにすごく色んなことを研究されてる方だったりとかして、海外に行ってご自身のやりたいことというか、例えばチベットに行かれたりとか、その中で精神的なことの勉強もご自分でして、その中で噛み砕いて、何がしかの答えが出来てるんですね。 でもその答えって、なかなか到達するまで難しい所があったりするんで、多分その答えをどこか、服だったりとかにどかーん!て出されると、まず面食らうと思うんですよ、何やってるんだ!?この人はと。 多分クライアントはそこでまず、マジ!?、服もわかんないけど、言ってることもわかんないってところ。 僕も最初もしかしたらそうだったんですよ。 服はかっこいいんだけど、何よ!?。 僕も今になって来て、北村さんと色々お話しすることもあるし、自分自身の生活の中で、北村さんが感じて来たことを少しずつ感じることが出来たから、やっぱりもっともっと北村さんの衣裳を着ることによって、自分が力を得られてるって感じをすごく実感しています。 |
司会: |
なるほど。 ありがたいですね。 北村さん、映画の衣裳っていうのはどういう所が一番醍醐味なんですか? |
北村: |
醍醐味っていうか、私けっこうそんなに器用じゃないんで、衣裳合わせまで自分一人でしかやれないんで、今でもたった一人で衣装合わせ前日まで自分が一人でやってるんですよ。 それは一つの物語性を自分が咀嚼してると、これ一人遊びのコツなんでね、空(くう)っていう何もないところで自分が勝手に、例えばここにいる3人が役者としてプリントアウトされてるわけじゃない、名前が、そうすると架空で自分がヘアをやりながら、こうやりながら自分でも撮ってる世界がある。 だから演出もカメラも全部自分の洋服に自分が演出してる。 そのときが最大のエクスタシーだね。 |
司会: |
へー。 脳内映画みたいなもの? |
北村: |
そうそう、脳内でもう出来てる。 そうやって3ヶ月、自分の中で映画を作ってるの。 そうすると、真空状態でいつも自分が永遠に見れるわけじゃない。 だから多分それが...? |
伊勢谷: |
(北村が無意識にたくし上げたパンツの裾を見て)(笑) |
浅野: |
(関係ないけど、北村の)靴下が赤いです。 |
北村: |
そういうことに近い。 彼等も同じなんじゃないかと思う、ねぇ? |
司会: |
今の話聞いてどうですか? 脳内映画というか。 |
浅野: |
そうですね。 僕はまた全然違う、俳優だから全く違う取り組み方だけど、そういう瞬間はやっぱあると思うんで。でも全然違いますけどね、取り組み方は。 |
伊勢谷: |
でも確かに排出の仕方としては効率が悪いとは思うんですよね。 |
司会: |
効率が悪い? |
伊勢谷: |
やっぱり自分の中でずっと咀嚼して、それをみんなにバラ撒いて仕事をさせるってのが事務所だったりとかして、こう成立して行くじゃないですか。 だけど北村さんの場合、僕も実際そうなんですけど、脚本を書き始めて、誰かが隣でわぁーっと!ってやっても、実は進んでるようで進んでなかったり、形だけ進んでる。 だから自分の中で脚本を書いて、ぐじゃぐじゃぐじゃぐじゃ全然まとまってねぇけど、自分の中で何かが作れて来てるってことを感じるときが、確かにエクスタシーだっていうふうに思うし、そうなったら今度やっと周りに僕は出るんですけど、だからやっぱそこは要領悪くても、すごく大事な部分なんで、北村さんはそこも含めて本当大好きですね。 大好きって話がしたかったのかな? |
北村: |
意外とみんな映画のスタッフが、私映画って、自分個人としては、映画自体を尊敬してる人なんですよ、映画そのものに対して。 だから自分の映画に加わってるものもそうだし、みんな世の中に映画って存在してるものは、いつでも私一人で見てるんですよ。 ただ自分が参加した映画のスタッフには、「この人は衣裳やりながら一回も見に来ない」とかものすごく言われるの。 何で彼等に、一回毎に私は見ました!見ました!って言わなきゃいけないんだ!? 私は勝手に、自分がやったものは勝手に映画館で見ますよ!って。 そういうのってあれじゃない?一人でパンドラのボックスを一人で見たいみたいなの。 映画ってやっぱそのことだと思うのね。 で批評なんて絶対に言えないくらいに、一つ一つ自分が、他人の映画でも見てると素晴らしいとこ一杯あるじゃないの。 私はだから映画って本当総合芸術だと思うのね。 だから、来るまでのちょっと小旅行みたいのじゃない、新宿まで来るとか。 だからその映画を見た後、必ずみんな何か代わるじゃないの、ヤクザ映画だったらヤクザになりきって帰るとか、娼婦だったら娼婦になりきって帰るとか。 そういうものに力があるってこと自体がちょっと不思議なものだと思ってるの。 そんなにないじゃないの、酒に酔うでも何でもなく、たった1本の映画を見て自分がちょっとさぁ、2時間、誰かの主役かどっかの所に自分がちょっとアプローチしてるときがあるじゃないの。 まさか自分がこのちょっとした洋服を作ってるとは思ってもいなかったから、見てくれる人には、けっこう本当にねぇ、感謝してますよ、今や。 |
司会: |
なるほど。 今日はその北村さんの映画衣裳第1作の「それから」も、今日一番最後になっちゃいますけど、上映で、何と北村さん見てないって説があって。 本当なんですか?それは。 |
北村: |
本当なんですよ。 |
浅野: |
見てる!くらいの話してたじゃないですか。 結局見てなかったっていう。 |
北村: |
ていうか、もうねぇ孤独な空間にいたんですよ。 で自分でわけわかんなくなって来ちゃって。 まぁ初めていじめに遭ったようなもんで。 知らないもんだから、明治だから、靴下は絹の靴下にちょっとこういうことをしてるのが普通だろうと思ってて、誰も教えてくれないから、その一人の役者に対して、ソックスとかバックアップを10足とか1ダースすることをなんて考えてもいなかったの。 それで、今はいらっしゃらないんだけど、もうここら辺に来てるかわかんないけど、もう松田優作さんに |
司会: |
松田優作さんですね。 |
北村: |
そう、彼がちょっと私にお願いしてたんで、事あるごとに「何だよ!ソックス1個しかないのか!?」ってADの人に言われる度に謝ってる自分がものすごくいて、謝ることのもの大嫌いな私が、毎週毎週謝ってることに、ものすごく自分自身が疲れて来たの。 それでどうして良いのかわからなくて、最終的に灰皿とテーブルくらいの違いさのボキャブラリーがおかしくなって来たの。 |
司会: |
は? |
北村: |
だから灰皿って言われて、はい!ってテーブル持って来るくらいの、ちょっと自分が、頭がショートし始めたから。 それで松田さんが「しばらく休んでた方が良いよ」って言ってくれて。 しばらく休んでたら良いやっていうんだったら、ちょっと私の場合だからニューヨーク行って遊んでたんですよ。 |
司会: |
撮影中に? |
北村: |
ええ、そうなんです。 そうしたら、しっかり映画を見る、映画の実際になったら、私のすごいバッシングが始まってたの、批評家たちに。 で行こうかなと思ってたら、松田さんがぶん殴ってるって噂も聞いたから |
司会: |
誰を? |
北村: |
要するに、ちょっと酷いことを言われた人に対して。 片一方ではもっとやってくれ!って言いつつ、いやぁ、ちょっと怖い世界だなぁっていううちに、自分がいつ死ぬかわかんないけども、死ぬときにこの1本を見て死のうかなってことのために、1本はとってある。 |
司会: |
それでまだ見ていない。 |
浅野: |
それだけの理由があれば全然大丈夫です。 |
司会: |
彼はOKしてくれるわね。 |
伊勢谷: |
北村さんを普通の社会で働かせようと思ってるのが多分間違い。 僕すごく日本って、形で決められてるから、みんな社会に出るときにこうなって、こうなって、こうなってなくちゃいけませんっていうのの上で、じゃ自分はどこ出してくかみたいなことから考えるじゃないですか、だけどその土台を作る時間を多分飛ばしてるんですね。 それは過去から今も変わらずで。 だから北村さんは全く群集に紛れないというのもその通りだと思うし、ご自身はちょっと勘違いしてらっしゃいますが。 でもそれは海外では当たり前で、良いことであったりするんですよ。 基本的に自分の意見はきちんと言って。 だけどそのシステムとして徹底してないから、ちゃんときちんとしたアシスタントを付けてあげないといけない。 それは周りが考えるべき。 だからその北村の社会に、北村道子さんの社会に世の中が合わせるようになってるとか、アーティストですから、そういうふうな形が世の中に出来上がって来れば良いのになと、僕自身においても楽だなと、ね? |
司会: |
菊地さんはどうですか?今の。 |
菊地: |
ねぇ。 でも本当...そう...ですね。 |
伊勢谷: |
というのはね、今まとめようと思ったんだけど全然まとまってませんね。 本当はもうはじけてるんだけど |
菊地: |
いや、浅野さんなんかは、もう |
浅野: |
え!? |
伊勢谷: |
時差ボケ、二人(浅野&伊勢谷)とも、実は |
司会: |
ちなみに今日はお二人とも時差ボケで、なんと伊勢谷さんは成田から直行です、ここに。 |
伊勢谷: |
北村さんのために。 |
司会: |
北村さんのためだけに。 |
伊勢谷: |
そしたら北村さんさっき「おっぱい」って言ってましたね。 何だそれは!?と。 そしたらその次に「あ、凛子あげるから、凛子。 凛子を貸すから。」ってどういうことですか? あと俺ね、北村さんをこの時間で伝えたいんだけど、伝え切れないんだよ。 もどかしいですよね。 |
司会: |
ちょっと今、エッセンスは少し、大分伝わったと。 |
伊勢谷: |
伝わったかなぁ? 少々じゃないですかね。 |
北村: |
大丈夫ですか? |
浅野: |
大丈夫です、ハイ。 これでまぁ映画見た人は余計に混乱するんだろうと思いますけど。 |
伊勢谷: |
そうですよね。 |
浅野: |
ハイ、調度良いと思います。 |
司会: |
まぁ大体お時間がそろそろということなんですけど、今日は「スキヤキウェスタン〜ジャンゴ」「アカルイミライ」「双生児」「それから」という、僕等が考える北村さんの代表作と言って良い映画が公開されまして、浅野さんは「アカルイミライ」と「双生児」に出ていて、伊勢谷さんが「ジャンゴ」ですね。 菊地凛子さんはこの中にはないのかな? ない? |
伊勢谷: |
突然なんで。 |
司会: |
突然ですね、本当10分前に急に決まったようなもんなんで |
菊地: |
何か、「オダギリさん来ないからあんた出てよ。」って、はい、わかりました!って、そういう関係です。 |
司会: |
まぁそういう形で、北村さんの第1作「それから」から、一番最近の「ジャンゴ」まで、多分衣裳が一番濃い映画って言って良いですよね?北村さんのね。 どうですか? |
北村: |
そうですね、みんな濃いんだけど、特に濃いですね。 |
司会: |
特に濃いですね。 |
北村: |
ええ。 私はナチュラルなんだけど。 ナチュラルなんだけど、うん、すいません。 日本の人はなぜかシンプルですよね。 私は何かやっぱり、多分2000年くらい前の人なんじゃないかと思う。 |
司会: |
2000年前? |
伊勢谷: |
キタよ。 |
司会: |
来た? |
北村: |
長くなりますので。 |
司会: |
じゃあ、そういうことで、今日は素晴らしいゲストを迎えてのトークショーでした。 |