TZK991108

[番外編] 『白痴』トークショー

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11月8日、大島渚監督の「御法度」が華々しく完成披露されていた頃、新橋ヤクルトホールでは、映画誌主催の「白痴」試写会&手塚眞監督のトークショーが行われていた。
TAは現れるはずもなく...

(本編上映前のトークより)
司会: 宝島社の「この映画がすごい!」の特別試写会、「白痴」の試写会に来ていただきまして、どうもありがとうございます。映画を見る前にあんまりアレなんですが、ものすごい映画です。とにかく見たことがない映画を、今日皆さん、絶対体験できると思います。この映画11月の13日から公開になりますが、今日は素敵なゲストをお呼びしております。「白痴」の監督です。手塚眞監督です。拍手でお迎えください。手塚監督どうぞ。
<手塚監督入場>
<拍手>
手塚: どうもこんばんは、手塚眞です。今日はようこそいらっしゃいました。
司会: 一言。それだけ(笑)?
手塚: はい(笑)?
司会: それだけ?
手塚: いえ、後でゆっくりまた(笑)。
司会: はい(笑)これからちょっと短い時間で残念なんですけど、トークを始めたいと思います。じゃ、どうぞ座ってください。
手塚: 座らせていただきます。
司会: 私と手塚君はですね、実は高校時代からの...
手塚: 「手塚君」という関係なんですね。
司会: マコトちゃんって昔呼んでたんですが、そのくらい昔からの友達で、自主映画仲間って言うか、ずっと映画を作ってて、それで「星くず兄弟の伝説」って映画があって、
手塚: 15年くらい前ですね。
司会: 仲間内では、「いつんなったら撮るんだよ?おい!」っていう感じで、とってもすごい長いこと待たされた、待ちに待った映画がこの「白痴」だった。
手塚: そうなんですよ。皆さんの方からご覧になって、なんか「子供が二人出てきたな」って感じに(笑)見えるかもしれないんですけど、もう何やかんやで20年くらい映画界にに関わって来たんですよね、私たちね。
司会: そうそう。
手塚: 学生映画の頃は、彼女は主演女優なんてものをやっておりましてですね、今でも主演できそうですね。
司会: どうもありがとうございます(笑)。(観客に)同い年です。
手塚: 今ではイラストライター(×レーター)ですか?で、彼女の方はイラストライターになり、私の方はヴィジョナリストとなり、どちらも訳わからない職業なんですね。
司会: 昔ほら、ブランド・デ・パルマ(?)にインタビューに行ったら...話があったんですよ、あの「アンタッチャブル」って映画で。そしたらデ・パルマってすごい気難しい人だって言われてたんですけど、アタシたちの顔見たら、もう一人映画ヒーロー(?)の松山君てのが一緒だったんですけども、いきなり顔とかが緩んじゃってね、「Students?」
手塚: そう、「君たちは学生かい?」って。もうプロだったんですけどね、その頃。学生だと思われて、
司会: あれね、絶対、子供新聞だと思ってるの。
手塚: (笑)それでなんか、「僕の映画の秘密を全部教えてあげるよ」みたいな、親切丁寧にいろんな秘密を教えてもらっちゃいました。
司会: すごいいい人でね、他の人に言ったら、「そんなこと信じられない」、「YESとNOしか答えなかった」なんてね、話もありましたが。でも、はい、今日は「白痴」の話です。
手塚: 自分の映画の方をですね。
司会: はい、えっと、色々話を聞きたいんですけども、まずヴェネチアに行ったって話辺りから。
手塚: そうなんです、あの、ま、実はその、先ほど、15年前に「星くず兄弟の伝説」という映画を作ったと言いましたけれども、これはまだ僕が大学生の頃で、自分では自主映画って言いますかね、学生映画のノリで作った映画だったんですね。それから、やっぱり本格的にプロとして映画作くんなきゃって思って、で、自分の作りたいものを、しかも作りたいなって思ってる内にもう15年も経ってしまった。で、今日これから見ていただく「白痴」という映画はですね、作ろうと思い立ったのが10年前なんですね。10年かかって、実は作ったという、非常に長くかかってる映画で、その10年、年取っちゃったんですけどね。
司会: ねぇ、長すぎたよ。
手塚: 10年前ですね、この映画作ったら絶対、外国の映画祭に持ってくぞ!日本の中だけじゃなくて、外国の人にも見てもらおうと思って、そういう決意から作り始めたんですけど、大変幸運なことに、きちんと組織関係(?)から来まして、ヴェネチア映画祭、それから釜山映画祭ですか、他にもいくつかヨーロッパの映画祭に行くんですけど、そういう所で見てもらえたんですね。
司会: ヴェネチアは何か、新しい部門の...
手塚: そうなんです。ヴェネチア映画祭っていうのは実は一番映画祭の中で由緒ある、古い映画祭なんですけど、今年から何かその、偉い人が替わってですね、未来のための新しい映画祭にしてやるっていう教義(?)でですね、いろんな新しい部門ができたんですけど。今日見ていただく「白痴」はですね、その中でドリームス・アンド・ヴィジョンズという部門で上映されたんですが、何と同じ日に一緒に上映された部門、その部門の中の映画がですね、あの「ファイト・クラブ」なんですね。
司会: デビット・フィンチャーのね。
手塚: そう、というか、ブラッド・ピットの。ブラッド・ピットと同じときに同じホテルにいたんですよね。一度も会えなくてね、悲しかったです。
司会: (笑)
手塚: でも、あの、そこで上映されたというのはですね、ある意味で世界のそのプロの映画の人たちが「ファイト・クラブ」とこの「白痴」という映画を、ある同じようなくくりの中で見ていたということなんです。それは何かと言いますと、簡単に一言では言いにくいんですけど、何か新しい映画を予感させる映画と言いますでしょうか、ま、自分で言うのはちょっと変なんですが、僕はとにかく10年前に新しい映画を作ろうと思ってこの映画を考えたんですね。10年も経ったら、もう古い映画になっちゃうかな?と思ったんですけど、でも一応、ヴェネチアでは新しい映画と認められたわけです。それは恐らく...僕はまだ「ファイト・クラブ」は見てないんですね、「ファイト・クラブ」見ましたか?
司会: 変な映画。
手塚: 変な映画!?新しい映画って言ってもらえるとかと思ったのに、変な映画と...
司会: ものすごい。新しい変な映画と、じゃあ言い変えるかな。いい勝負かもしれない。
手塚: いい勝負かもしれない?
司会: 何か、負けないよ、絶対、眞ちゃんの映画の方が。デビット・フィンチャーがちょっとオカマが入ってるしさぁ
手塚: あの、でも、とにかく皆さんが「ファイト・クラブ」の方を見たいと思っているんであればですね、これはけして、自分で言うからアレじゃないんですけど、新しい映画を作ろうと思ってる映画人が世界にはたくさんいて、今までの表現をもう一つ乗り越えて、新鮮なものを作って行こうという動きなんだという風に、皆さん考えていただきたいと思いますけどね。
司会: とにかく、見たことないような映画って言い切って、「白痴」っていいと思う。だから、見終わって悩んじゃう人もいるかな。
手塚: いるかもしれないし、あまりそうやってお客さんを脅してもしょうがないですけど(笑)。でも、恐らく、これはヴェネチア映画祭でも、韓国の釜山映画祭でもそうなんですけども、もちろん気に入っていただける方、あるいはちょっとお気に召さなかった方、色々いるとは思うんですが、見終わってすぐに感想が出ないと思います。これはもう、はっきり言わせていただきますけど、長く考えていられる映画だと思うんですね。そして、長く考えながら、その中で徐々に、自分の中でこの映画が理解できてくるっていう、そんな映画じゃないかなって思いますね。
司会: 何か、「こういう映画」って、一言では絶対に言えない映画だと思うのね。
手塚: そうですね。大体、出てる人がそうなんですよね。あの浅野忠信君って、もちろん有名だから皆さん知ってますけど、彼を一言で形容しようってのも難しいですよね。あの、上手い俳優さんです。あの、実は彼はすごく個性的なんで、その存在感の方が目立っちゃってますけど、上手いんですね、芝居も。プロのすごいベテランの人と一緒にやらせても、「あぁ、浅野君上手いな」って、みんな舌を巻くくらい上手いところがある。でもその上手さを表に出すんじゃなくて、むしろ、その上手さに自分の個性を負けさせないっていうんですか、いかに自分は自然でいられるか、あんまり上手い演技を心がけようってんじゃなくて、浅野忠信自身でいられるかってことを常に考えてる人なんですね。だから、一緒に監督しててもとっても面白い。普通は俳優さんってのはもっと一生懸命頑張んなきゃとか、努力していい演技やろうとかって、こう、「構え」があるんですけども、彼は全然構えがないんですよ。
司会: すぅ、すいって感じに
手塚: そうなんですね。難しいことを要求しても、「はい、大丈夫です。頑張ります。」って、それしか言わないんですよね。いっつも、「大丈夫です。頑張ります。」って、そればっかり言うから、面白いから映画の中のセリフにもわざと「大丈夫です。頑張ります。」ってセリフを入れちゃったんですよね(笑)。それは今日、見てのお楽しみなんですけども。それくらい自然体で、すごく才能のある、ユニークな人ですね。
司会: あの、映画の主人公って監督に似るとかって言うじゃない。その辺はどうですか?
手塚: どうでしょうね。昔はけっこう、そう言われて。もちろん脚本も自分で書いてますから、出てくる登場人物全員がある意味で僕の分身みたいなもので、この中に銀河という女の子が出てくるんですけどね
司会: きれいなんだけど、すごくズルイの。
手塚: この女の子、今まで試写会でいろんな人に見せてきたら、男の人には評判が悪いんですよ、彼女は、すごく生意気だとかって言って。でも女性の人は見るとすごい共感してくれるんですね。でも書いてるのは自分が書いてるわけですから、本当はおかしい話でね。でもなんか脚本書いたり、映画のこと考えてるってときは、自分の中に何人も何人も人間が出来上がってきて、それがしゃべっているような感じで作りますね。あるときはむしろ、自分が浅野君になってたり、自分が甲田益也子さんになってたり、そんなときもあるかもしれませんね。
司会: 書いてるとこを見てみたいような気が。
手塚: 見せられないですね(笑)
司会: 甲田さんもすごい個性的と言うか、ずっと手塚監督、惚れ込んでいたと
手塚: そうなんです。甲田益也子さんって皆さんご存知の方いるかもしれませんが、ほんとにもう20年くらい前から、今で言うところの「カリスマモデル」って言うんですか?ホントに手が届かないような存在としていて、すごくきれいな方で、いつか僕は一緒に仕事をしたい、というよりも、映画にぜひ出て欲しいなと思ってたんです。彼女はずっと役者はやっていませんでしたから。で、10年前に「ぜひこの映画で主役をやってください。これがあなたの映画のデビューです。」って、こうカッコつけて言ったんですけども、なかなか僕が製作に入らなかったんでねぇ、その前に「ファンシィ・ダンス」って映画に彼女出ちゃって、
司会: スキン・ヘッドでね。きれいですよね。
手塚: そうなんです。デビュー作じゃなくなっちゃったんですけど。でも、事実上はこれがデビュー作だと思います。あの普通の映画の域を越えた、ものすごく彼女の個性的な持分を生かした存在として登場してると思いますので、その辺も楽しみにしていただきたいと思います。
司会: 楽しみというのは、セット、一体どこまでを作って、どこまでが本物なのかなっていうか、もうその辺が全然わかんないような感じで。
手塚: そうですね。あの外国に行ったときも、「あの舞台になってる街はどこで撮影したんですか?」とか、「どこでロケしたんですか?」とか。ある場面なんかは、「このフィルムはどこで手に入れたんですか?」って。それはあまりにもリアルだから、本当のドキュメンタリーじゃないですかって聞かれたんですけど、全部この映画のために作ったセットだったり、画面だったりしてるんですね。
司会: 新潟だかに大きなオープン・セットを作って、それを燃やしたって話は何回も聞いてるんだけど
手塚: はい。そうですね、あの、丁度セット全体の大きさが東京ドームくらいあるんですけども、多分、二度と日本映画では作れないだろうって言われてる大きなセットだったんですが、最後に空襲の場面がありまして、そこで全部燃やしてしまったんですね。今見せたくても、見せられないんですよね。
司会: それをぜひ大きいスクリーンで観て、さらにまた大きいスクリーンで劇場で確かめて欲しいと思うんですけど、本当に一口でこの映画は言えないし、日本映画って枠を取っ払っちゃうような、そんな映画です。いろんな「事件」だなって、そんな風にも思ったし、それともう一つ、どこを切っても手塚眞映画。アタシたち、昔の自主映画の仲間はみんなそんな風に言ってて、だから、とても嬉しい映画だというか、本当に今日、ここで観られる方は、本当にすごい映画が生まれる瞬間にいられるんじゃないかなって、思います。力入れてすいません(笑)
手塚: そうですね、観てても力入る映画です。
司会: 力、入ります?いろんな意味で力が入る映画だし、これはぜひいろんな人に...時間経ってから、ちょっと経ってからいろんな人に話したくなる映画ですね。
手塚: そうですね。今日、ですから二人連れとかカップルでですねいらしていただいた方は、見終わってから、話し合いしながら帰っていただくといいのではないか。くれぐれも意見が対立してケンカにならないように(笑)
司会: えっと、そろそろね、時間も押してきちゃったんですけど、これからのお話、「白痴」についての、もうすぐ公開、11月の13日に公開なんですが、それに向けてのお話とか、手塚監督のこれからのこととか、ちょっと最後に、じゃあお話を。
手塚: はい、13日から公開なんですが、その前の日のですね、12日に新宿のロフト+1という小さいイベントスペースなんですが
司会: 歌舞伎町の地下降りていくところですね。
手塚: はい、ここで夜7時からですね、前夜祭を兼ねてですね、トークショーをやります。その日は2時間たっぷりしゃべるんですけど、ゲストにあんじさん、川村かおりさん。お二人ともこの「白痴」に出演してるんですね。それともう一人、新人女優でこの映画に出演してる橋本麗香さん。3人、女性の方お迎えして語り合おうという、そういう企画もありますので、もし今日ご覧になって、またそういう裏話も聞きたいなっていう方は来ていただきたいですね。
司会: そうですね。秘蔵フィルムももしかしたら見られるかもしれない。
手塚: 秘蔵フィルム。そうですねぇ。あの、やるかもしれないです。私の昔作った映画をちょっとずつ見せるとかね。見せたくないって言って封印してたやつも、もしかしたら持ち出すかもしれないですよね。
司会: 手塚眞監督の8mm、16mm時代のとか、そういうやつですよね。
手塚: そうですね。
司会: あの映画が!みたいのが見られるって話を
手塚: 昔、テレビでやってた某お茶の子なんとかをですね。
司会: お茶の子博士。知る人ぞ知る。
手塚: 知る人ぞ知る、もう二度と見れないってのを持って来るかもしれないですね。
司会: じゃあ、ぜひこれは貴重な話と貴重な映像とで、ぜひ。11月の12日の夜ですね?ロフト+1でぜひ出かけてって、貴重な映像と、もっとたくさんお話をですね、ぜひ聞いてもらいたいと思います。なんか、これからの話とかってあります?
手塚: これからですか?
司会: なんか、映画作って行くよ!って話を、さっきちょっと聞いたんですけど。
手塚: 僕もたくさん作りますし、実は今日、皆さん意外と思われるかもしれませんけど、この映画一番最初にある会社の名前が出るんですけども、え!?と思われるかもしれないんですが、手塚プロダクションってのが出るんですけども、実は、今手塚プロダクションってのはアメリカの映画会社と一緒に映画を作ろうって話をしてまして、もう皆さん知ってるでしょうが、「鉄腕アトム」がアメリカで映画化されるわけなんですよ。で、それと同時にですね、日本でももう一回「鉄腕アトム」のアニメをやろうって話になってまして、この辺もですね、手伝いながら一緒にやろうかなぁなんて思ってるとこですね。
司会: すごいですね。
手塚: あんまりどんどん、どんどん未来の話ばっかりしちゃうとね、取り残されて行っちゃうんですけど、今日はとってもいい機会だと思います。この映画は10年前に作ろうと思って、丁度、完成して上映される今年が1999年っていう、なんかとっても時代の節目に当たってしまったんですけど、そういうときに見るんなら、最高の映画じゃないかと思いますので、ゆっくり楽しんでいただきたいと思います。
司会: 最後までごゆっくり。本当にあっという間の映画だと思いますので。後々までずっしり残る。貴重な映画体験を、ぜひして欲しいと思います。手塚眞監督でした。どうもありがとうございました。
手塚: 本当に今日はどうもありがとうございました。
司会: 拍手でお送りください。
<拍手>
<監督退場>
司会: ということで、手塚監督ありがとうございました。この「白痴」はですね、11月の13日から、渋谷シネパレス、新宿ピカデリー3他で公開されます。順次全国で公開になります。上映時間は2時間26分です。それから渋谷シネパレス、13日の初日なんですが、11:45からと12:15から、上映の間なんです、頭と終わりかな?舞台挨拶があります。監督と浅野忠信さん、甲田益也子さん、橋本麗香さんの舞台挨拶がありますので、こちらの方もぜひおいでください。それから外でですね、表で前売券も今日は売ってますので、帰りにもう一回見たい!とか、誰かともう一回見たい!とか、友たちに見せたいとかっていう方はですね、ぜひ買って行ってください。というわけで、「白痴」の上映をこれから始めたいと思いますが、その前にポケットベル、それから携帯電話のスイッチ、ちょっと確認してください。というわけで、「白痴」2時間26分、けして長くありません。本当にあっという間の映像経験ていう感じです。最後までごゆっくりお楽しみください。どうもありがとうございました。
<拍手>


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更新:2001.11.09(金)
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