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あの人が語る!? 「DISTANCE」ティーチイン

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7月10日、渋谷シネマライズ、"情熱家"是枝監督の「DISTANCE」ティーチインも第4回目、遂にアサノの番が来た。これまでのアサノは舞台挨拶の数分間にだけ現れる人。俳優として作品を語ったり、ファンの問いに直接答える機会はほとんどなかった。今回はたっぷり30分。地上に舞い下りた王子様は何を話してくれるのだろう。


ご出席(敬称略)
是枝裕和 監督
浅野忠信 (坂田)


浅野さんのいでたち
  • すっぽり黒&水色のニットキャップ
  • 浅野風髭
  • グレー地に赤のプリントのT
  • モスグリーンのワークパンツ
  • 黒の革靴
前夜のMACH 1.67での激戦のためか、声がガラガラ


<映画鑑賞後のティーチインより>
浅野 え、皆さん、今日はありがとうございます。先にもう映画を見てもらったと思うので、見て、なぜこれはこうなんだろう?とか、この人は何なんだろう?とか思ったら質問していただければわかる範囲で答えるのでよろしくお願いします。
<拍手>
是枝 こんばんは。えーと、ティーチイン、4回目になります。4回とも来てる方もいるようなんですけども、なるべく、あの皆さんと対話の時間を長くしたいもんで、挨拶の方はこれくらいにしましてですね、さっそく手を挙げていただいて、この後は進めて行きたいと思いますので、質問のある方、元気に手を挙げてください。


Q:坂田にだけ名前がないのはなぜですか?
是枝 あったんだね。
浅野 ありましたね(笑)
是枝 えっと、登場人物の中で坂田にだけ下の名前がない?本当はあったんですけど、でも呼ばれなかった。呼ばないようにしてるというのかな。プログラムにも載せてない?あ、そうかも知れないな。呼ばなかったんで、逆にあると混乱するかなと思って、みんなやめちゃったんですね。敦は「敦」としか書いてないですからね。本当はありましたよね?
浅野 ありました(笑)
是枝 坂田はコウイチ君という名前なんです。
(^o^)
取ったのはね、特別に意味はないです。あの、そんなに深くは。どういう字?えっと、あの、あれです、カタカナの「エ」を書いて「力」に数字の「一」。


Q:敦と老人の関係は?
是枝 はい、わかった人?
(^o^)
  あまり謎解きの映画じゃないんで、謎解きだけになっちゃうと困っちゃうんで、あの、あまりこうわかり易くね、物語を結論つけて終わってる映画ではないんで、あの二人は親子なの?あの二人は本当に姉弟なの?って考えながら帰っていただくって感じですかね。


Q:ロッジでの坂田の喫煙はアドリブ?or指示した演技?
浅野 えっと、あ、えー、えっとですね(笑)や、僕自身、言っちゃいけないんですが、煙草吸わない人間(笑)なんで、煙草のCMをやるなって言われるんですけど、
(^o^)
  違う話しをしたいですね。えっとですね、だから僕のアイデアだったのかな?なんか他の方についてみて、煙草だけが空いてるんだけどって言ったと思うですけど。ですからあれはリアルな煙草というか、利用してみたっていう僕の癖みたいなヤツなんですね。
是枝 浅野君のところは、ほとんどあれだよね、セリフは書いてないよね。
浅野 そうですね。
是枝 好き勝手にやってっていう。
浅野 好き勝手に喋ってます(笑)
是枝 あの浅野君にお願いしたのは、その場その場で自分が、自分にプロテクト、矛先が向かないように、自己正当化して言い逃れしてねっていうことだけ、ほぼそれだけお願いをこうして、いてもらっていて、そしたらみごとにああいう「ヤな奴!」じゃないけれど、非常にこう人の弱い部分を、ね
浅野 そうですね。
是枝 あの、とても今回あらためてすばらしいと思ったんですけどね。


Q:神様を信じますか?
是枝 映画の中でも神様の話をしてましたね。神様を信じるかどうか?
浅野 僕の中では一応神様はいますよ(笑)。ハイ。
是枝 あのね映画の中で伊勢谷君がしゃべってる話は、あの伊勢谷君が自分で考えて話してるんですね。でARATA君が喋ってる話は、あの、あれは伊勢谷君が一日の撮影が終わった後に僕のところへ来て、「明日ARATA君と神様の話がしたい、僕はこういうことを喋りたい、神に関して」っていう。で伊勢谷君に、じゃいいよ、そういうシーン作ろうかって言って、じゃ作っちゃおうねって話して。でARATA君の方には、「伊勢谷君がこういうこと喋りたがってるから、ちょっとこういうこと言ってくれる?」ってお願いをしてあります。だからARATA君が喋ってるのは僕の考えに近い。


Q:この後、坂田はどこへ行くのでしょう?
是枝 撮ったんだよね。
(^o^)
浅野 撮りましたね(笑)
是枝 あのね、撮ったんですけど、たださすらってるとか行き場がないという感じのシーンを撮ったんですけど、逆にね、ない方が行き場のない感じが出たんで、編集で落としたんですけどね。ごめんなさい。
浅野 イエイエ。
(^o^)
是枝 あの、彼だけがその後どこに行ったのか、この後はってね。やった方としてはどう思ってるの?
浅野 わかってないんですけどね(笑)。やってる方は本当に。


Q:「幻の光」の頃と比べて浅野さんが変わったことは?
浅野 そうですね、まぁハイ、もうそれは日々変わっているというか(笑)。「幻の光」の頃はもう何かわからないような希望を持って現場に行って、で今回の「DISTANCE」はもう、そういう希望っていうよりか、現実的にすることを受け止めながらやってるなっていう、形になって来たというか、そういう意味でがんばろうという気持ちに変わってたと思います。
是枝 6年だっけ?どう変わった?うーん、や、あの相変わらず魅力的であることに変わりはないんですけど。ただ僕自身の中での映画の作り方に対する考え方がだいぶ変わっていて、それとのコラボレートの仕方というのが、今回の決定的な違いなんですよ。浅野君のある別の面を引き出せたと思ってるし、久し振りに仕事をすると余計わかんなくなると思って、ホントねなんかわかんないんですけど、いい意味で、いい意味で捕らえられない、まだ捕らえきれないようなところがありましてですね、もう一度何かを、もうちょっとですね次の仕事でもと思ってるところはありますけどね。良かったです。非常にスリリングでした。


Q:線路のシーンはどのくらい時間をかけましたか?
Q:全部でどのくらいの時間分のフィルムを撮影しましたか?
Q:鳥の声や水の音をどうやって録ったのですか?
是枝 今丁度あなたの目の前に二人座られているのが撮影の山崎さんと録音の森さんなんで、そこで答えていただければ一番いいんですけど。すいません、できれば立って一言ずつでも。え、山崎さんでお隣が録音の森さんです。
<拍手>
山崎 (残念!聞こえない)
是枝 あれ、線路の脇は予定になかったんですね。なんか移動の途中でなんか気になってあそこへ戻ったら、電車が来るっていうんで、じゃあ電車来るまで撮ろうかみたいな。けっこういい加減なんです。映画全体としてはですね、20時間ちょっとですかね、回したの。その中から2時間なんで、10分の1ぐらいですね、撮ってる。音の方は、森さん。
(残念!聞こえない)
是枝 すいません、2階の人、ちょっと聞こえなかったかもしれないですけど、あの録音をやってくれたのは、日頃はこの山崎さんとテレビのドキュメンタリーをやっている録音の方で、ちょっと普通の映画とは違う録り方をしてまして、誰が何を言うかわからない状況なんですけど、まず、いいと思って勘で音を汲みながらやって。汲みながらやるということをドキュメンタリーでもやってたんですけど、まったく同じ形で、現場の音を録ってもらって、それを大体80%は使って映画を作りました、って感じですね。今回ね本当に、だからキャストというよりは、キャストと技術スタッフと合わせて使っての共同作業です。でもうまくいったんじゃないかなと僕自身は思います。


Q:自分の家族が宗教に入ったらどうしますか?
是枝 どうですかねぇ。
浅野 友達の家族とかで××ってのがいて、まぁあの、まぁその看護婦をしてた人が加入してたみたいですけど、友達とかはまぁそれで勧誘されたというか、まぁなんかそのほんとにそういう宗教に加入したらやっぱそれなりに一生懸命、なんていうのかな?それでやっぱり宗教っていいのかなっ?ていうふうに理解する人もいれば、やっぱりちょっとなんか恐いというか、変わっちゃったなみたいに見える人もいるけど、××って人はまぁまぁ、自分でもなんか家族を、逆にもうそれは、そうですね...うざったかったら直接「うざったいよ!」って言える関係だと思うんで、家族だと、そういう風に、本人はそれで楽しかったすけど、意外と。
是枝 あの、映画の中でもこのカルトにはまる人達を描いているんですけども、僕自身は、僕は信仰を持っていないんですけどもね、信仰を持つこと自体がいけないことだという風には描いてるつもりはないんです。で、むしろその信仰を持つ、向こう側へ行ってしまうモチベーションは、ある意味、僕自身特にそれを大きなモチーフに作りましたけども、ある部分理解できる、共感する部分がある。ただそれが犯罪という形で反転していくところは僕わかんないから、バカ正直にわからないって描いているっていうことなんです。その中でみんな描いているこちら側の方としてですね、向こう側を描こうって意志がありますけども、描けることを描いて、そういうポジションをとっていこうと思ってます。


Q:浅野さん自身の坂田への感情は?
浅野 そうですね、まぁ坂田に限らずなんですけど、いろんな役をやってると、あまり考えなくなってくるみたいで、そのこんな人もいるな、こんな人もいるなっていう風にしか思ってなくって、だから坂田みたいな人もいるんだろうなっていう風に。だから本当にそれはもう役者病というか、何でもかんでもOKになって来ちゃうとこがあるので、それは別に不思議じゃなかったですね。だから監督が今その、「宗教が犯罪を起こすことは理解できない」とおっしゃったんですけど、僕は意外とそのイメージ、想像の中では理解できるというか、で、そういう深いとこまで行ってしまうと、あれ?っていう風になるというか、本当に残酷なことに聞こえるし、僕は経験してないから、本当にこんな何でも言えるけど、やっぱりそういうことはあってもしかたがないっていうか、長い歴史の中でいくらでもあるし、そういうなんか、まぁ一瞬近付きたいっていう衝動はあって。ただ絶対自分は犠牲になりたくないですけど。
是枝 あれですかね?どんなときも特別な役をやっているとか、特別な人を演じているのではないの?
浅野 いや、特別な人なんですけどね(笑)、明らかに。だから役者としてしか受け止めてないというか、ハイ。あの、すごい言うことが人によって違う人だけれど、よくあることだとも思うし、例えば口が裂けてるヤクザの役であってもそれはまぁ、そんな人がいたらおもしろいけど関わりたくないな。


Q:衣裳は用意したものor私服?
是枝 映画の中で出演者が着ていた服は、えーとね、えーとARATA君は自前、伊勢谷君も自前、寺島さんも打ち合わせに着ていたジャージ
(^o^)
えっと、伊勢谷君の彼女役の梓さんも自前か。で、夏川さんと浅野君は用意した。えっとね、ちょっと服で、てゆうか夏川さんの着てる服ってやっぱり元先生、塾講師だったから、着てるものがある程度夏川さんと違うものだったんで、そこは用意したんですが、基本的にはなるべく自分のもの持って来てもらったんですよね。伊勢谷君があのぐちゃぐちゃの道歩いてるときに「こんな靴履いてこなきゃよかったよ!」って言ってるのはたぶん本音。
(^o^)

Q:シナリオとアドリブどちらが好きですか?
浅野 そうですね、やっぱり台本ない方がやっててワクワクする感じなんで、自分なりには。相手の人が何言うかわからないんですけど。ハイ。あと元からある脚本で監督に言って、手直してもらうってのも。


Q:「あそこまで戻るのめんどくさいな」の意味は?
是枝 りょうさんのシーンで浅野君が「あそこまで戻るのめんどうくさいな」と言うのはどういう意味、ニュアンスが?気持ちが?その部分と、後は彼はどういう気持ちで湖へ行ったのだろうかっていう、その辺を浅野君はどう捕らえているのかという2つの質問。
浅野 えぇ!?まぁでも、あの「あそこまで戻るのめんどうくさいな」は本当にただロッジに戻るのがあって。でもあれは面倒くさいとか思って言っているんじゃなくて、セリフとか、とにかく口に出てきたことを、何か、いきなしこう言ってたみたいですけど、ですから別にロッジに戻ろうが戻るまいが本当はどうだっていいんだけれど、つい口に出た、間を持たせるために出たっていうのがあって。あとはそのそこに行くのは、僕の勝手な解釈は、やっぱり坂田はもう本当に何の気なしに生きてる人っていうか、本当にフラフラしてて、わけのわからない人で、その本当に、いつも通りフラフラしてたら、遭難した日が来てしまうっていう。本当にまぁ、まぁやっぱそんなもんだっていうのもあるっていうか、一瞬思い出してみて、訪れたんだと思うんですけどね。
是枝 僕は編集で「あそこまで戻るのめんどうくさいな」っていう一言を聞いて、もちろんあれはセリフがあったわけじゃなくて、あそこは完全なフリートークだったんで、あのたまたま二人のスケジュールが空いてて、「じゃあ何かやろうか?」って作ったようなシーンなんでね、ですから「好きにして」って言って、そこで使ってる言葉が、後で編集とかで見てみると、りょうさんが言ってる「あっち」っていうところと、「戻るのがめんどくさい」って彼が言っているところがたぶんひっかかって、いろんな意味に膨らまそうと思えばいろいろ膨らんで、後から考えるとね、とれるっていうのが発見だと思うんですね。ただ僕も編集で聞きながら、これはもしかすると、その坂田の中にもう、この教団が面倒くさくなってる、不安になってる気持ちが込められてるのかもしれないみたいに考えられないこともないという気がしてるんですがね。その辺を全然計算してないところがおもしろいのかな。計算しているのかもしれないけどね、計算していないように見えるってところがすごい。


Q:ドキュメンタリーとフィクションの境界線は?
是枝 ドキュメンタリーとフィクションの境界線があるか?ドキュメンタリーとフィクションっていうのは、難しい話しになっちゃうんですけどね、ドキュメンタリーっていうジャンルとフィクションっていうジャンルが明快に別れているとは思ってないです。えっと、そうですね「ワンダフルライフ」のときには明快にその目標を解明に向かって、スタッフさんと演出してみたんですけど、今回はどっちかっていうとね、役者さんから出てくるある言葉だとか、感情だったりをドキュメンタリーのように撮って、アプローチの仕方をドキュメンタリーにしているという感覚で撮ってます。で出来上がったものがジャンルとして何になるかというのは今はあまり考えてないですね。うん、あの、よく言われるのは、その手持ち(カメラ)だとドキュメンタリーっていう、ドキュメンタリータッチ、ドキュメンタリー的だと言われちゃうのが、実はあんまり僕は好きじゃないんですけど。今回は手持ち、ほぼ全編手持ちで撮ってもらったのが、役者さんに好きに動いてほしい、どう動いてもかまわない、どういう表現をしてもかまわないよっていう、制約をはずすところからスタートしてるんで、役者の動きを自由に追えるように、だったらカメラマンも役者さんに同行して一緒になるようにする、で、その気持ちで撮ってるっていう方が役者さんの感情を捕らえられるんじゃないかっていう考えから手持ちにしてる。表現したいものがあって、捕らえたいと思うものがあって、方法論にしている感じですね。


Q:なぜ「DISTANCE」というタイトルにしたのですか?
是枝 何で「DISTANCE」というタイトルがついてるのか?えっと、いろんな意味が、いろんなDISTANCEを思ってついてるんですけどね。最初はARATA君と伊勢谷君の二人の物語からスタートしてて、非常に静かな、静的なARATA君と非常に能動的な伊勢谷君、タイプの違う二人の男の子のロードムービーっていう企画を最初に練っていたんですけど、旅の間に二人の違いが見えてくる、距離が縮んだり伸びたりするっていうことで「DISTANCE」ってつけて、撮り始めてからいろいろ複雑になってきまして、信仰を持つ人間と持たない人間の心の距離、同じ加害者の家族っていう立場は同じ共有してるんだけれども、環境はそれぞれ別々で、道を共有できない存在ということ。だから「距離」という一言をキーワードにして、色々な人間関係を描ければいいなっていう風な、結果的にそういう映画になったんで、ただ最初に付けたタイトルが主題としては最後に残ったんですが、最初に思い付きのタイトルがそのまま最後まで引張りました。


浅野 えー、できればみんなの質問に答えたいので、アンコールでもかけてくれればまた出たいと思います。
是枝 ありがとうございました。また来週も18日にやりますので、ぜひまた皆さん時間のある方はお友達を連れていらしてください。どうもありがとうございました。
<拍手>


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更新:2001.07.19(木)
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